2022年度国際造園研究センター文化講演会

◉テーマ

新しい造園の胎動を聞く 『文化的景観と名勝保全 ー 新規ランドスケープ事業の展望』

◉開催趣旨

今日、造園界を俯瞰すると、世界遺産・登録記念物(名勝地)など、歴史的・文化的景観や遺跡等をめぐる新たなランドスケープ事業の広がりが注目されている。このような趨勢に鑑み、わが国の第一人者をお招きし、新規領域を学び、後に続く人への羅針盤の提供を目的とする。

◉講演内容

講演1「文化財/文化遺産/文化的資産としての風景/景観」

平澤 毅(文化庁文化財第二課主任文化財調査官)

文化庁文化財第二課主任文化財調査官
1967年生まれ。東京大学大学院農学系研究科修士課程修了。博士(農学)。
論文に「百年の名勝」(2021、『日本歴史』876・吉川弘文館)、『名勝地保護施策に関する研究』(2017、東京大学学術機関リポジトリ)などがある。

概要

21世紀を迎えて早20年余り、この間、文化財や文化遺産、あるいは景観や地域に関する動向は活発に進展し、いろいろな主体がさまざまな取組によって主導権を発揮しようとして、乱立の様相すら呈しています。加えて、それぞれの取組も複雑に発展し、今日、もはやそうしたことの全容を把握するのも相当にたいへんなことと言わざるを得ません。一方、出発点が異なるこれらの取組は、まるで収斂進化のように、持続可能性の追求の下、多様性や一体性、さまざまな対象の密接な関係、地域社会の重要性など、同様の方向性を掲げるようになっています。
私は、これまでの経歴から遺跡の計測や整備、庭園の調査や研究、名勝地の保護のほか、世界文化遺産や文化的景観、文化財保護制度などに取り組んできましたが、この10年余りは、特に名勝地のことを中心に検討や実践を重ねてきました。折しも、日本において、名勝地を含む記念物の制度は、2019年で100年を迎えました。そうしたことなども振り返りながら、この度は、今日の状況を俯瞰しつつ、風景や景観ということの発想などについて改めてお話しできればと考えます。


講演2 「ブータン密教・ボン教の遺産と景観」

浅川 滋男(公立鳥取環境大学教授)

公立鳥取環境大学環境学部教授
専門は民族建築/建築考古学、住環境保全論、居場所論。木造建築士、工学博士(京都大学)。
1979年、京都大学工学部建築第2学科卒業。中国留学(北京語言学院・同済大学)、奈良国立文化財研究所、京都大学大学院人間・環境学研究科(併任)を経て、2001年、鳥取環境大学環境学部教授。著書に『住まいの民族建築学』(建築資料研究社1991)、『建築考古学の実証と復元研究』(同成社2013)、『チベット仏教求法僧 能海寛と宇内一統宗教」(編著・同成社2021)、『ブータンの風に吹かれて』(編著・公立鳥取環境大学2022)などがある。

概要

ヒマラヤ山麓の小国、ブータンは大乗仏教を国教とする唯一の国である。太古のヒマラヤ周辺には自然崇拝に重きをおくボン教が広範囲に浸透していた。7世紀、吐蕃を率いるソンツェンガンポ王が勢力を増し、チベットで最初の統一王朝が生まれた。ネパールから王に嫁いだチツン妃、唐から王子に嫁いだ文成公主妃はいずれも仏教を篤く信仰しており、この地に大寺を創建する。ソンツェンガンポもこれに倣い、ボン教の魔女を浄化するため12の仏教寺院を開山した。ブータンのキチュラカンとジャンバラカンも王の開山と伝承される古刹である。
8世紀になると、北インドの僧、パドマサンバヴァが後期密教をこの地に伝え、ブータン仏教が胎動し始める。高山の崖で長期の瞑想をする密教的修行に特徴があり、ボン教と後期密教の融合したニンマ派(古派)の台頭である。創始者のパドマサンバヴァは、グルリンポチェ(蓮華生大師)としてチベットとブータンで今も崇拝されている。11世紀以降、チベット仏教の諸派がブータンに南下し布教を競う。中世以降、各地の宗派は群雄割拠の様相を呈していた。
17世紀にこれを統一したのが、ドゥク派の領袖(シャブドゥン)、ガワン・ナムゲルである。チベットでの権力闘争に敗れブータンに逃げ落ちてきたナムゲルは、勢力を拡大していたドゥク派と合流して諸国を統一し、ブータンに初めて国家を建国する。その国名はドゥク・ユル、すなわち「ドゥク派の人々」である。今回の講演では、ブータン仏教の歴史をたどりながら、ボン教・ニンマ派・ドゥク派の代表的遺産とともに、「仏国土」というべきブータンの景観を紹介する。

◉日時

2022年12月10日(土) 13:00~17:00

◉会場

大阪ドーンセンター セミナー室(定員 50 名)
大阪市中央区大手前1丁目3-49
(地下鉄谷町線天満橋駅、京阪電車天満橋駅下車)

◉参加費

主催・共催団体会員:1,000円
非会員:1,500円